畜産で活躍するオゾン〜伝染病予防と臭気対策

畜産で活躍するオゾン〜伝染病予防と臭気対策

2000年に日本国内で92年ぶりとなる口蹄疫が発生しました。幸い現在ではワクチン非接種清浄国の地位に復活していますが、中国・韓国などの諸外国では口蹄疫が散発しており、高病原性鳥インフルエンザなども含め、人と物の移動が激しい現代においては予防に気が抜けません。

臭気問題も深刻化しています。農村の都市化により畜産施設と住宅が接近したことや畜産の大規模集約化による糞尿の増加が背景にあり、現代では家畜臭に不慣れなまま育った人の割合が多いという根本的な問題もあります。現代社会は生理的なにおいを排除する方向へと進んでおり、畜産業にとって臭気対策が基本的な要請となっています。

オゾンは強い酸化力を有しながら短時間で無害な酸素に分解するという性質を持つため、残留性のない消毒手段として幅広い分野で用いられています。また、脱臭効果も強力です。消毒と脱臭は畜産業にとって基本的なニーズであり、双方を満たす物質としてオゾンは大いに有用と言えます。

この記事ではオゾンのユニークな性質についてわかりやすく解説しながら、感染予防と臭気対策への活用法を紹介していきます。

畜産に役立つオゾンの特性

畜産に役立つオゾンの特性

畜産に役立つオゾンの特性

消毒薬の強さと環境負荷の大きさは比例するのが通例ですが、オゾンは強い殺菌力を持ちながら環境に残留しないという例外的な物質です。それ以外にも畜産業にとって有用な性質を挙げることができます。ここではそうしたオゾンのユニークな特性を簡単に解説していきます。

強い酸化力

オゾンは3つの酸素原子が結合した分子で、非常に強い酸化力を持ちます。通常の産業や生活で扱われる物質のなかではフッ素についで二番目に強く、従来消毒に広く用いられてきた塩素の6倍とも言われています(※1)。それだけに高濃度では人や家畜にも有害となりますが、低濃度で運用することで殺菌や脱臭に用いることができます。

オゾンは脂質・タンパク質・核酸などを次々と酸化することで細菌を殺しウイルスを不活化します(※2)。殺傷力が強いだけでなく、抗菌剤・抗ウイルス剤と違って相手を選ばないのが特徴です。伝染病発生時に病原体が不明の段階でも消毒に使用することができ、予防消毒の際にも想定対象によって薬剤を代える必要がありません。

オゾンはアンモニアを初めとする無機化合物やメタンなどの有機化合物を酸化して分解する作用も持ち、高い脱臭力を発揮します(※1)。

薬剤耐性菌を生まない

医療現場で抗菌剤(抗生物質)が乱用されてきたことで薬剤耐性菌が世界的に蔓延し大きな問題となっています。畜産の現場で用いられる抗菌剤も薬剤耐性菌を生みやすく、それが人に感染すればパンデミックを引き起こし、有効な薬剤がないまま死亡者を出る恐れがあります。そのため、アメリカ食品医薬品局(FDA)は畜産での抗菌剤使用を段階的に廃止する方針を打ち出し(※3)、農林水産省も対策に乗り出したところです(※4)。

細菌やウイルスは猛烈なスピードで増殖するため、突然変異も頻繁に起こります。特定の薬剤にさらされている環境でその薬剤への耐性を獲得すれば生存に非常に有利になるため、薬剤耐性を得た細菌・ウイルスはまたたく間に増えて病害を蔓延させます。

抗菌剤や抗ウイルス剤は細菌・ウイルスの特定の部位・機能をピンポイントで攻撃するのですが、実はこれが薬剤耐性の発生を誘っているのです(※5)。突然変異によってこの一箇所が変化するだけで薬剤耐性を獲得することが可能だからです。

一方、オゾンは強い酸化力によって病原体に多方面から攻撃をしかけるため、薬剤耐性を生みにくいという特性があります。今後抗菌剤などへの規制が強まっていくことを考えると、オゾン殺菌の有用性はますます高まって行くと思われます。

残留性のなさ

オゾン分子は化学的に不安定で、通常の環境では自然に酸素に分解していきます。病原体が排除され薬剤成分の残留もない安全な空間で飼育を行うことができ、消費者などに向けてクリーンさをアピールすることもできます。

従来の消毒剤を使った畜舎や器具の消毒では、薬剤の種類や消毒部位によってはすすぎ洗いが必要になり、環境保全の面で廃液の処理も大きな問題となりますが、オゾンならばそうした懸念は無用です。

低ランニングコスト

オゾンは発生機器と水と電源があれば発生させることができ、機器の頻繁なメンテナンスも不要であるため、ランニングコストが安くするものもメリットです。オゾンはほとんどすべての細菌・ウイルスに効果を発揮するため、多数の薬剤を揃える必要がなくなり、薬剤費と管理費用が削減できます。消毒後のすすぎ洗いや排水処理のためのコストも不要になります。

オゾンによる家畜伝染病対策

オゾンによる家畜伝染病対策

オゾンによる家畜伝染病対策

オゾンの利用形態は大きく分けて二つあります。ガス状のオゾン(オゾンガス)を散布するものと、オゾンガスを水に溶け込ませるか水中にオゾンを発生させてオゾン水として利用するものです。それぞれを用いた研究事例と現場での導入事例を紹介します。

オゾンガスによる殺菌

空港検疫所では水際対策のために入国者の衣類や鞄などをオゾンガスで消毒する装置を導入しているところがあります(※6)。物品を濡らさずに消毒でき、現場の実態に即した利用と言えます。

養豚施設内にオゾンガス発生機とオゾン濃度計を設置し、オゾン濃度が0.06 ppm以下になると発生機が作動し0.1 ppmを超えると動作が停止するようにしてオゾンの効果を確かめた実験があります(※7)。0.1 ppmは日本産業衛生学会が労働環境でのオゾン許容濃度として定めた値です。この実験では殺菌効果が確かめられただけでなく、豚の発育が向上する傾向も見られました。

ただし、オゾンガスは管理が難しく、施設内に設定濃度のガスを行き渡らせるには許容濃度を超えてオゾンを発生させなければならず、労働衛生上問題があるという研究もあります(※8)。

オゾン水による殺菌

一般的にオゾン水のほうがオゾンガスよりも管理しやすいというメリットがあり、比較的高濃度のオゾンが用いられる殺菌処理ではオゾン水の利用が広がっています。とくにオゾンが目に見えないほど小さな泡となって水のなかに存在するタイプのオゾン水は殺菌効果が高く、口蹄疫ウイルスや豚水胞病ウイルスなどを含む多数のウイルス・細菌に対し低濃度でも即効性を示すことが確かめられています(※9)。

オゾン水は畜舎・家畜市場・食肉処理場などの建物の洗浄消毒に利用できるほか、施設入り口に散布して病原体の侵入経路を断ったり、伝染病発生時に汚染ポイントを殺菌するといった使い方もできます(※10)。

オゾンによる家畜臭気対策・排水処理

家畜養育施設からの臭気に対する周辺住民の苦情件数は高止まりしており、臭気対策が急務となっています。また、施設から河川への排水についても住民との利害衝突が多発しているのが現状です。これらの問題に対するオゾン活用の事例・研究を紹介します。

家畜臭気対策

上記の通りオゾンガスを畜舎の殺菌に使うのは難しい面がありますが、畜舎内にオゾンガスが均一に行き渡るように噴霧装置を設置し脱臭に成果を上げている畜産農家の事例があります(※11)。また、オゾン水で畜舎を消毒すれば臭いの元となる物質も大量に分解することができます。低濃度のオゾン水を定期的な洗浄に取り入れることも有用です。

排水処理

畜産排水は活性汚泥法などの生物処理を行ってから河川に放流するのが通例ですが、これだけでは色度やCODを十分なレベルまで下げることができず、水質汚濁と悪臭を引き起こしてしまいます。実験によると、高濃度のオゾンで排水を処理することで基準以下の水質にすることが可能です(※12)。

まとめ

オゾンは適切に運用すれば高い効果と環境への安全性を両立でき、畜産業にとっての懸案である家畜伝染病対策と臭気対策を同時にまかなえる一石二鳥の手段です。オゾン水を施設内の広い範囲の用途にあてる仕組みにすれば、オゾン水発生装置導入の費用対効果を高めることができ、低ランニングコストというオゾンのメリットをさらに引き出すことができます。

将来を見据えた経営を目指す畜産農家にとって、オゾンは社会的責任と経営の要求の双方を高いレベルで満たしうる手段と言えるでしょう。

(参考文献)
※1)電氣學會雜誌「新しいオゾン技術とバイオテクノロジー」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1888/108/12/108_12_1173/_pdf
※2)筑波物質情報研究所「オゾンによる殺菌機構」
http://www.jcam-net.jp/data/pdf/06016.pdf
※3)ナショナルジオグラフィック「薬剤耐性菌の感染拡大、世界で脅威に」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9193/
※4)農林水産省「家畜に使用する抗菌性物質について」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/koukinzai.html
※5)日本内科学会雑誌第100巻第10号「多剤耐性菌の細菌学と臨床対応」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/10/100_3072/_pdf
※6)朝日新聞デジタル「国内8空港にオゾン殺菌装置 検疫所で短時間殺菌」
http://www.asahi.com/travel/aviation/TKY201201240552.html
※7)農研機構「オゾンガスを利用した養豚施設の飼養衛生管理」
http://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/seika/kanto16/03/16_03_34.html
※8)神奈川県水産技術センター研究報告「養豚施設へのオゾンガス利用方法の検討」
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/520020.pdf
※9)日本獣医師会雑誌「超微細高密度オゾン水による殺ウイルス効果試験」
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010752346.pdf
※10)オゾン水で家畜伝染病の侵入防止
https://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-130/documents/03ozon.pdf
※11)畜産環境シンポジウム「畜産の臭気対策について」
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/pdf/02_shigeoka.pdf
※12)土木学会「長時間曝気法による養豚排水処理水のオゾン処理に関する研究」
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2010/65-07/65-07-0040.pdf

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